■お毛々シスターズ♯9 お毛々マスター陽田

「タケシサン、無事デ・ナニヨリデシタ」

青龍会の毒蛇の猛毒から回復した私にアンドリューが言った。
「アンドリューのおかげだよ。おまえが急いで運んでくれなかったら死んでたかもな」
「タケシサンヲ守ルノガボクノ仕事デス」
アンドリューは私を両手に抱えてジャングルの中を走ったために
いたるところ塗装が剥がれ、下地の金属もあらわになっていた。

“すまん、アンドリュー。帰ったらオレがきれいに塗装し直してやる”

私は忠実な召使いアンドロイドに心の中で感謝した。



私たちは便老人の言うことに従い、お毛々西武新宿線田無駅を下車し、
商店街を離れ民家の間に歩を進めていた。
人通りは少ない。
ローソンがあったのでコーヒーを買い店の前で飲む。
アンドリューにはおやつ用にジッポのライター・オイルを買ってやった。
アンドリューは、ングングと音を立てておいしそうにライターオイルを飲んだ。

「・・・・しかし、さっきから誰かに見られてる気がする」

何か妙な気分になり私はつぶやいた。
「・・・ボクハ何モ感ジマセンガ」
「何か気配がするんだ。それにここは何か妙に懐かしいような・・・」
私は何げに辺りを見回した。


するといつのまにか店の角あたりに小男のジジィが立っていた。
風俗誌“大人の歓楽街”を手に、店の壁に隠れるように立ちこっちをジッと見ている。
思わず私はジュードーの構えをとった。

「ずっと見てたな!!」

小男のジジィはあわてて両手で顔を覆った。
「やめんかいな。ワシャ武器は持ってへん」
異様に大きな耳、エロい目つき、卑屈で卑猥な口調、手にはエロ雑誌、そして関西弁−
怪しい。
こいつは怪しい。


私はジジィに詰め寄った。
「なんだ、おまえは」
「鶴光でおま」

ジジィはのうのうと答えた。

「鶴光だと?
土曜の深夜ラジオをゲスな桃色に変えた下ネタばっかのあの関西芸人と同じ名前か?コノヤロウ!」
「ウッソよね〜〜!!」
「ウソかよ」
「あんさん、このへんの人やないやろ。こんなとこ何しに来はってん?」


思わず警戒したものの、よく見ると只のエロいジジィかもしれない。
ジジィはしゃべりながらも、また風俗誌のページに釘付けになっている。
“今週末はどこの店に行こうか”とでも考えているのだろうか。

「人を探しに来た」

「おお、そやったら早速見つけたわけやな。探しとんのはワシやろ? んーふふふ」
「違うよ」
私は思わず鼻で笑い、冷たく言い放った。

「オレの探してる人は偉大な戦士だ」

「“偉大な戦士”やて!? 戦うて偉大にはなられへんでー。ひゃひゃひゃ」
“・・・なんだ、コイツは。聞いた風なこと言いやがって”


ジジィはヒョコヒョコと私の側に来ると、今度は私の脇に置いてある手荷物のバッグの中を漁りだした。
「おい!! オレの荷物に触るな!!」
「なんやねん、食いモンはないんかいのー!!」
ふと、ジジィの手がバッグの中で止まった。何かを見つけたのか。
ジジィはバッグの中から手を出した。
その手にはさっき私がブックオフで、中古で買った小倉優子の写真集があった。
そして、ジジィはあろうことか写真集を自分の服の中に入れようとした。

「やめろ! それはオレの宝物だ!!」

私は思わずジジィに飛びついた。
「ワシのや!! くれへんのやったら探したらへんで!!」

「誰がおまえの力なんか借りるか!! オレが探してるのは偉大なお毛々マスターだぞ!!」

「おぉ〜〜、・・・・そりゃあんさん、陽田のことかいな?」
「何!? キサマ陽田を知ってるのか!!」
「誰でも知っとるワ。よっしゃ、ワシが案内してけつかるワ。ん〜〜ふふふ」
ジジィは私とアンドリューを連れて田無の町の奥へ入っていった。





歩けど歩けど陽田の家には着かなかった。
このスケベなジジィは道の途中にあるエロ本屋や
大人のオモチャ屋にフラフラと立ち寄り、
かと思うと、階段の下から上を覗き
歩く女子高生のミニスカートの中をカメラで隠し撮りしたりしている。
私はだんだん胸がムカついてきた。

「なんでオマエのエロ道中にオレが付き合わんといかんのだ!!
 一体いつになったら陽田の家に着くんだ、この腐れジジィめ!!」


エロジジィに向かって怒鳴る。
すると、ジジイは急に読んでいたエロ本のページをめくるのを止めて溜息をついた。
「・・・・あかん。こいつは教えられへん。口が悪すぎる」
その時、便の声がどこからともなく聞こえてきた。私をかばう言葉。
「私もかつてそうでした」
「ホンマに怒りっぽいヤツや。母親とは似ても似つかんワ!」
私をジッと見つめるジジィの神妙な顔つきを見て、私は初めて理解した。
このエロジジィが陽田だったのだ。

「歳もとりすぎとる」
「それは否定できません」
てっきりまたかばってくれるものと思っていた便は、きっぱり陽田に同意した。
「便!」


私はあせった。
第一印象は最悪だ。このままでは青龍会に行くことができない。
今の私が行ってもまたヤツらに迎撃されるに違いない。
そうならないためにはなんとしても陽田に教えを乞わなければ。
私は必死で叫んだ。

「下品さでは誰にも負けません!!」

「ほんじゃ、何ぞやってみんかいの」
私は少し考えると、両手を下半身に45度の角度で持っていった。
「コ・・・・コマネチ!!」
私はビートたけしの往年のギャグをやった。
陽田と便は両腕を組み首を傾げる。
そして不満げにつぶやいた。
「・・・・照れがあるのぅ。それに全然下品やないし−−−、しかも古すぎる。オモロない」
便もうなずいた。
2人は大いに失望したようだ。
「確かにおまえからは尋常ではないエロフォースを感じるがの」
「お願いします! オレがんばりますから!!」
私は懇願した。
すると陽田と便は顔を見合わせてヒソヒソ声で会話を始めた。
時々私の顔を見てはクスクス笑っている。
私は自分の下半身をチラリと見た。

・・・・チャックは開いてないよな・・・。


私を見ながらヒソヒソ話を続ける陽田と便に私はあせった。
「何も恐れません!!」
スベったギャグに顔を赤らめながらも私は懇願した。
途端に陽田は私の顔にズイと近づき、私の目を見つめ、そして言った。
「それはどうかな?」

陽田はすばやく私に背を向けると、私の顔めがけて強烈な一発をお見舞いした。
それは強烈な悪臭を放つオナラだった。
「・・・う〜〜ん・・・」
私は思わず地べたに崩れ落ちた。



意識の薄れる中、アンドリューの姿が目に入った。
陽田の持っていた風俗誌を手に、鼻をふくらましうれしそうに語りかけてくる。

「タッ、タケシサン!! 今度コノ店ニ行キマショウ!!」

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