■お毛々シスターズ♯2 カスミ

「背の高い女って嫌でしょ?」

カスミは溜息つきながら私にこぼした。
彼女は私の乳首に生えるお毛々シスターズの中でもひときわ“長い”女だ。
学生時代にバレーボールのキャプテンをしていたこともあり
体格もガッチリとしていて私と並んでいても私が子供に思えるほどだ。
心優しく気を使う性格なので他のお毛々にも慕われており、
いわばお毛々シスターズのまとめ役のような存在だ。
笑った時に出来る深いえくぼと白い健康的な歯がチャーミングな子である。
私とカスミはファミレスで一緒に御飯を食べていた。
カスミはせっかく頼んだハンバーグもあまりハシが進まない様子だ。

「何か悩みでもあるの?」

私は聞いた。
「うん・・・。男の人ってデカい女が嫌いでしょ? たけちゃんはどう?」
「オレは全然気にならないよ」
「でも一緒に歩いてても肩だって抱けないじゃない。男って自分よりデカい女はかわいくないんでしょ?」
「そりゃオレが背が低いからだって(笑)」
「でもあたし付き合った人みんなに言われるの。ふとした時に“おまえってデカいな”って」
「そんなの気にしなくていいじゃないか。足も長いしスタイルだっていいし。オレうらやましいよ」
「でも腕だってホラ、こんなに太いし肩だってこんなに。男みたい」
「誰もそんなこと思わないよ」

「でもそんなこと言いながら邪魔になったら私のこと剃るかもしれないでしょ?」

「まさか!!」

私はあわてて答えた。
「マサヒコのヤツだっていつもあたしのことイジメるんだ。
“ジャイ子”とか“デカ女”とか嫌なこと言うの。あと「剛毛」だとか・・」


・・・・またアイツだ。


いつも黒服にロレックスのスカした女たらしのお毛々だ。
大して立派なお毛々でもないくせに
まだ生えたてのウブ毛の女の子をからかっては私を困らせる問題児だ。
私のお毛々の中でも一番チャラチャラしていて、
ヒマな時は女遊びかパチンコばっかしてる嘘つきで嫌なヤローだ。
近々剃ってやろうかと考えている。


「なんでちっちゃくてかわいらしい乳毛に生まれなかったのかな・・・」

「みんながちっちゃくなくていいだろ。他のお毛々達だってみんなカスミが好きだよ。
  頼れるカッコイイ女でもいいじゃないか」
「頼られなくてもいいよ。頭なでられて“ヨシヨシ”ってかわいがられたいんだ」
「じゃオレがヨシヨシってしてやるから」
私が頭をなでてやるとカスミは子猫のように目を閉じて微笑んだ。
「たけちゃんって優しいね」
「そりゃお前たちの親みたいなもんだからね」
「たけちゃんが彼氏だったらいいのに」
「冗談でもこんなオッサンにはうれしいな」


しゃべるだけしゃべったからなのか元気を取り戻したカスミは自宅に帰っていった。
こうして悩み事をうちあけてくれるのはうれしいものだ。
快活な普段のイメージとは違うカスミもまた魅力的なのだ。
私はカスミのことが前から気になっていた。

“たけちゃんが彼氏だったらいいのに”

その言葉を思い出しながら密かにそれが現実になることも期待していたりする。
夜になり私は自宅でくつろぎながらカーティス・メイフィールドを聞いていた。
ファンキーなリズムとやさしいカーティスのファルセットボイスに浸っていると携帯が鳴った。
携帯をとると発信先はカスミだった。
電話口でカスミは泣きじゃくりながら声にならない声をあげている。

「・・・うぅ・・ヒドいの・・・ひっく・・そんなじゃ・・ひとりで・・・ひっく」

何をしゃべっているのから聞き取れないがひどく取り乱しているようだ。

「・・・ひっく・・たけひゃん・・家に・・来て・・・うぅ・・ひっく・・いい?・・・ひっく」


私は急いで隣駅まで自転車を走らせた。
困っている女につけいる男のスケベ心も働いているであろうことは否定しない。
15分ほどかけてカスミのマンションに到着すると
マンションの前に覚えのある黒のジャガーが止まっている。
2階のカスミの部屋の前に行きドアの前に立つと中から
泣きながらわめいているカスミの声と聞き覚えのある男の声が・・・。

その声の主はマサヒコだった。

あのヤロウ、カスミにも手を出していたのだ!


私がマンションの外に出てタバコに火をつけ
部屋に入っていいものかどうかと思案していると
カスミの部屋の電気が消えた。
マサヒコがマンションから降りてくる気配はない。


呆然と立ちすくむ私。
夜の静寂の中タバコの白い煙が闇に消えていく。

「・・・剃るなんて生やさしいことしねぇぞ」

私はマサヒコの黒のジャガーのボンネットで
タバコの火をもみ消すと一人つぶやいた。

「テメェ、永久脱毛してやるからな」

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