望月峯太郎の「座敷女」というマンガをご存じだろうか。 マンションの隣の住人を訪ねてきた女に話しかけたことをきっかけに、 その女に執拗に付け狙われるようになるという、 ストーカーに都市伝説をプラスしたようなサイコ・ホラーなんですが、 これがとにかくすさまじくコワい!! 内容は書きませんが、平凡な日常と平凡な主人公に忍び寄る狂気・恐怖がすごくリアルで、 ありそうなんですな。こういう話が。 ここまでではないですが、私が体験したコワい出来事も、 同じく自分の住んでいたマンションの話で、そのために怖さも倍増なんだと思います。 下の「眉毛のない女」は体験者の私にはすさまじくコワい話ですが、 読んだ人にはなんてことはないかもしれません。 マンションという「他人に関心を持たない者達の空間」の恐ろしさを味わった出来事です。 長いので続き物です。今回はそのパート1。
■眉毛のない女1
かれこれ10数年まえの話である。 そのころ私は2年間働いた会社を辞め、ちょっとヤバいことをやった後に あちこちのアルバイトで暮らす無軌道な生活を送っていた。 その頃は景気もよく仕事先など腐るほどあったから、 バイト先が気に入らなくて辞めても他にいくらでもあったのだ。 私はこの頃、昼夜交代制の工場で働いていた。 3日間昼勤の後、2日休日、そして夜勤が3日という、 人間のライフリズムを一定に保ちにくい勤務時間であった。 慣れるとそうでもないらしいが、やはり最初はキツいのだ。
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私のマンションは大阪の京橋から一駅のところにある4階建の普通のマンションで割ときれいなところだ。 私の部屋は403なのだが、エレベーターがないので上り下りが大変である。 その日私は夜勤を終えて朝の9時に家に帰ってきた。 風呂に入り、コンビニで買ったおにぎりとビールを流し込むとベッドに倒れ込んだ。 慣れない勤務時間に体がダルいのだ。私はそのまま眠りの闇の中に吸い込まれていった。 ・・・・・・・・・・・・・ ドズーーーン!! どのくらい眠った頃だろうか、どこかから何かが爆発するような音にびっくりして目を覚ます。 「・・な、なんだあの音は・・・?」 時計を見ると朝の11時すぎである。 よく聞くとドアをノックする音であった。下の階のようだ。 しかし、ノックする勢いが尋常でなく、その音は辺りに響き渡っていた。 ドズンドズンドズンドズン!! ドアを叩く音と共に叫び声が聞こえてくる。 「おるのは分かっとんねん! 出てこんかい!!」 借金取りかな・・・。しかし、うるさいな。 もう、かれこれ20分くらい叩いてるぞ。 だいたい周りの住人は誰も出てこないみたいだな。仕事行ってるのかな? しばらくすると何やら悪態を一言二言吐き捨てると帰ったらしく、辺りはまた元通り静かになった。 私はまた眠りについた。
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ある日マンションの階段の壁に貼ってある張り紙にふと目が止まった。 「マンション内では大きな音や声を立てないようにしてください。近所迷惑になります。」 ? 一見なんてことのない普通の張り紙ではあるが、 ふむ・・・・、なんでこんなことわざわざ書いてるんだろう?
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その日は朝から仕事で、ゴミの日だったのでついでにゴミ袋を持って階段を降りる。 ゴミを置いていると、このマンションの住人らしい男の人が同じくゴミを置きに来たのであいさつをする。 マンションの前に止めてあるバイクを動かしてエンジンをかけようとした時、誰かが私の肩を叩いた。 「おにいちゃん、今から仕事か?」 私の側には小柄なおばちゃんが立っていた。 背は140cmくらい、小太りというのか肉付きのいい体型である。 おばちゃんは私の側で満面の笑みを浮かべている。 明るく親しみやすい感じの(悪く言えば慣れ慣れしい)、いかにも大阪人って感じの人だ。 只、一見して分かるのはその異様な風貌。 クリッとしているが焦点の定まらない目。眉毛はない。 どす黒い肌の色。ニカッと笑う口からのぞく歯は方々が抜け落ちていてスカスカしている。 たぶんアル中か麻薬やってるか何かだろう。すごく幸薄そうな人相である。 しかし愛想はすこぶるいい。 「あ、はい。おはようございます」 「兄ちゃんもこのマンションの人か? 何号室や?」 「あ、4階のもんです」 私はなんとなく号室は教えなかった。 「そうかぁ、ウチ302号室や。仲良うしてな」 「・・あ、よろしく」 「それにしても、やかましいな。こないだもアレ聞いたか?」 「アレ・・・ああ、ドアノックしてたやつ・・・?」 「そうそう。かなわんなぁ。近所迷惑やがな。なぁ」 「ホンマですよね」 「ほな、ウチも仕事いくわな。ほんじゃ、にいちゃんもがんばってな」 そう言うとおばさんは背を向けて歩いていった。 歩いていくおばさんの首筋に青アザがあるのに気がついたが、 アル中の奥さんをダンナが殴ったかなんかだろ。 ・・・・・その時はそう思った。
2に続く
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