チャプター4

 

●前回までのあらすじ
リザードマンは夜の港で、ホッファとその仲間である7人の男と合流する。
その様子を遠方から監視するジョンの目の前で、
ホッファは猟銃を持った男に遠方から狙撃され襲撃を受ける。
暗殺を失敗した男は車で逃走した。
彼は一体何者なのか。
襲撃現場を部下と共に取り調べるドナヒューは、街での新たな事件の兆しに苛立ちを感じる。
一方、ナオミは自分の所属する部署から、愛人である重役ガーランドの秘書へと転属を受ける。





男は安ホテルの自室のドアを開けて、息を切らしながら部屋になだれこんだ。
ホッファを襲撃したその男は、手にしていたライフルの入ったバッグを床に落とした。
男の落としたバッグの脇のテーブルの上には、
ファースト・フードを食い散らかした包装紙の山がそのままにしてある。
着ているものを脱ぎ捨てシャワー室に飛び込んだ男は頭から熱い湯を浴びた。
衣服を脱ぎ捨てると、彼は男ではなかった。
形のいい豊かな胸に細くしなやかな首、くびれたウェスト、
ひきしまった腹筋に、せり上がった丸いヒップ・・・・
“彼”は女だった。
両手で自分の体を包み、滴のしたたる体中を撫でて緊張をほぐそうとしていた。
その両手はまだ震えていた。
彼女は今日初めて人に向けて銃を撃った。
幸か不幸かその銃弾は的を外したのだが。


“なんてこと・・・失敗した・・・・”


彼女はこの街でやっとホッファの居場所を探り当て、しばらく機会をうかがっていた。
そしてせっかく人気のない場所にヤツが出たというのに、そのチャンスを逃してしまったのだ。
正直、今日人を殺さなかったことにも内心ほっとしていた。
しかし安心しているわけにはいかない。
必ずヤツを仕留め、そして“彼”から奪ったものを奪い返す。
彼女はそう考えていた。
しかし、今日失敗したことによって警戒されるのは確かだ。


“・・・あれだけの数の悪党を敵に回して果たして太刀打ちできるだろうか・・・。”


3週間ほど前ホッファに自分の恋人が殺されてからというもの、
彼女の頭の中には“復讐”という2文字の言葉しかなかった。
だがしかし、彼女は復讐を遂げたが最後、このまま自分が手がみるみる汚れていき、
どんどん自分が想像も出来ないような場所に墜ちていくのではないかという不安にも囚われていた。
しかし殺し屋を雇うほどの金もなかった。



少し平常心を取り戻した女はシャワー室を出た。
濡れた体と髪をバスタオルで乱暴に拭う。
しかし、居間に人の気配を感じてぎょっとする。
女は衣服と共に脱ぎ捨ててあったホルスターから拳銃を抜くと叫んだ。


「誰!?」


そこにはジョンがホテルの安物のソファーに腰掛けてじっと女を見ていた。
女は声を震わしながらもう一度聞いた。


「誰なの!?」


ジョンは銃を向けられていることには全く動じる様子もない。
「おまえこそ誰だ? なぜリザードマンを襲う?」
「・・・リザードマン? そんなヤツ知らないわ。あんた、ホッファの仲間なの!?」
「誰を狙ってたんだ?」
「あんた、この銃が目に入らないの?」
「入らないね。丸裸のあんたの体は見えるが」
ジョンは“割と”無表情なまま女に言った。
「え・・・? ・・・あ、・・あぁっっ!!」
ジョンの言う意味を少し遅れて理解したバレリーは、思い出したように側のタオルで体を隠した。
再び彼に銃を向けた女の手は震えている。
ジョンは銃の横側に目をやる。
安全装置は掛けられたままだった。


「オレはヤツらの仲間じゃない。賞金稼ぎで、リザードマンを追ってる」
「・・・賞金稼ぎ?」
女は少しだけ安心したが、銃はまだ構えたままだ。
少し穏やかになったトーンの声でジョンに訪ねる。
「・・・じゃあ、どうしてここに?」
「あんたが邪魔したからさ」


ジョンは続けた。
「気付かれないうちに捕まえるつもりが、あんたが手を出したせいでヤツら警戒しちまった。」
「あたしが狙ってたのはホッファよ。」
「改めて聞こうか。あんたは何者だ?」
「わたしはホッファを・・・ホッファを殺して彼の持っているディスクを取り返したいだけよ」


“ディスクを取り返す?”


ジョンは予想していなかった言葉が女の口から出てきたことに驚きなからも続ける。
「なぜホッファを狙う?」
「恋人の仇だからよ。ヤツに殺されたのよ」
「そのディスクはあんたの物なのか?」
「あたしの恋人の物よ。あいつが殺して奪ったんだ。だから取り返すのよ」

バレリー




ガンメタル色のワゴンは、路地の角を荒々しく曲がると疾走を続けていた。
ワゴンの側面に反射した街のオレンジ色の光が猛スピードで流れていく。
車の中は小さく傾き、ブルブルと揺れた。
助手席でリザードマンがわめく。

「もっと丁寧に運転しろ」

「この車がヘタってんだべ。コーナーでヨレるんだぁ」
グリーンはチラとリザードマンを見てから言う。
「ステレオかテレビくらいついてないのか、この車は。盗むんならもうちょっとマシなの選べよな」
「選んだのはマゼンダだよ」
後部座席でコッパーが弁解する。


隣で貧乏ゆすりをするコッパーの足が目障りなのかパープルが言う。
「落ち着けよ。ブルってるのか? それともヤク中か?」
「うるせぇ、ブルってんじゃねぇ、クセだよ」


「あそこか?」
リザードマンは前方に見える薄汚いホテルを指さした。
4人の乗ったワゴンは旧式のマンションが建ち並ぶ路地に入っていった。





ジョンと女はホテルで話を続けていた。
「ここはすぐ離れたほうがいい。薬莢から足がつくかもしれん」
ジョンは立ち上がりながら女に言った。

ピッタリと体に貼り付いたタンクトップの上から皮ジャケットを羽織った。
「そんな・・・、警察じゃあるまいし」
「やつらの中に一人ハッカーがいるんだよ。そいつは猟銃だろ? 登録してる銃なら一発だよ」
「ただの薬莢から?」
「ああ」
床に置いてあった皮のバッグに私物を無造作につっこみ、
ライフルの入ったバッグを手にすると女は立ち上がった。


「・・・幸先悪いわ」




女は自室のドアを出ると長い通路を歩いていた。
ジョンは女の後を歩いている。
このボロいホテルには、4階の女の部屋から外に出るための階段が2つあった。
2人はその1つめの階段目指して歩く。
階段に続く通路の途中の角にさしかかった時、女は黒服の男とハチ合わせした。

黒服の男はグリーンだった。

女よりびっくりしていたのはグリーンのほうだった。
思わず声を漏らす。
「・・・あ・・」
グリーンの手に銃があるのを見て、女は表情を変える。
そして女は手にしていたバッグを力一杯にグリーンに叩きつけた。


「あいでー!!」


バッグはグリーンの顔面を捉え、グリーンは後ろにふっとばされ、銃は遙か後方に弾かれる。

「走れ!」

ジョンがそう言うと階下に続く通路をまっすぐ駆けた。
しかし、突き当たりの階段から一人の男が上がってきているのを見て立ち止まった。
男はゆっくり歩みをすすめながら、首を左右にユラユラと揺らしながら言った。

「臭う。臭うぞぉ〜。硝煙と・・・熟れたプッシーの臭いが」
男はリザードマンだった。


“こんなに早くやってくるとは”
標的が向こうからやってくるとはジョンにとっては好都合であったが、
今はこの女を巻き添えにするわけにはいかない。
とりあえずは女を逃がしてやることにした。


ジョンは女の手を引くと反転し、もう1つある階段めざして走る。
「うう・・・」
さっきぶん殴ったグリーンが鼻を押さえながら立ち上がろうとしていた。
女は立ち上がろうとするグリーンの顔に思いっきり蹴りを入れた。
「うがーーー!!」
グリーンは再び悲鳴を上げながら後方にふっとばされた。
女とジョンは、もう1つの階段まで走るとそのまま駆け降りるようとする。

が、そこにも2人の黒服がいた。
パープルとコッパーが階段を上がってくるところだった。
コッパーが叫ぶ。
「ヤツだ!!」
女はジョンに向かって叫ぶ。


「上へ!」


ジョンはリザードマン達4人を目で確認してから、バレリーについて走る。
反対方向からはリザードマンがゆっくりと歩いてきていた。
その後方からはグリーンが、溢れ出る鼻血を押さえながらその後を走って追っていた。
コッパーはパープルの前に走り出ると、数階上の女とジョンに向けて撃ちまくった。
銃弾は壁に当たり、騒音と破片をまき散らす。

「きゃーーー!!」

女は叫びながら手にした拳銃をコッパーに向けて無造作に連射した。
恐怖で目を塞いだまま撃った銃弾の一つは“偶然”コッパーの脇腹に命中した。
「あうっ!!」
コッパーは衝撃できりもみすると階段をころげ落ち、壁にぶち当たり床に転がった。
女は両手で銃を構えたまま呆然としていた。

「あ・・・当たったわ」

ジョンは女の肩を押し、急がせた。
2人は階段を駆け上がっていった。


リザードマンが駆けつけ、コッパーの様子を見ている。
腹部から大量の血を溢れさせている。
「なんてこった」
パープルとグリーンが側でつぶやいた。
コッパーは撃たれたショックと痛みからわめきまくっていた。
「ちくしょう! なんだ、こりゃあ!! オレの腹を・・腹を撃たれたっっ!!」
パープルは側でコッパーに言う。
「ちょっとガマンしろ。すぐ医者に連れてってやるからな」
しかし、そんなことはコッパーの耳には届いていないようだ。
撃たれた腹部のせいで力が出ない声のままわめき散らしている。

「ちくしょう! 腹を! 腹を撃たれたっっ!! 痛ぇ! ちくしょう、痛ぇ!!」

うんざりした表情でリザードマンは、しばし体を反転させて溜息をついた。
そして拳銃をリロードさせるとおもむろに、叫び続けるコッパーの頭に撃ち込む。
コッパーの頭は衝撃で壁にぶち当たり、その頭からは深紅の血と脳みそが壁に飛び散った。
壁からはドロっとした血と肉の固まりがしたたり落ちた。
叫び声は止んだ。
パープルとグリーンはギョッとして目をかっぴらいたまま、骸と化したコッパーを見つめていた。
リザードマンは2人を見ると静かに言う。
「軟弱なヤローはいらん。無駄飯食いが」


通路の角からは、買い物袋を落とした女とその男が、震えて硬直したままリザードマンを見ていた。
リザードマンは2人を見つけるとニタリと笑いながら言う。
「役に立ってもらおうじゃないの」



「で、屋上に連れて来てどうしようってんだ?」
ジョンは女に言った。
辺りに逃走経路の見当たらない12階の屋上に2人はたどり着いていた。
「に・・、逃げるのに必死だったのよ!」
女は息を切らしながらジョンを睨んだ。
それから建物の端まで駆けていき、避難用のハシゴを見つけて女は手をかける。
しかし、はしごの片方は外れて、朽ち果てた金属の破片が地上へと落ちていった。
「使い物にならんね」
ジョンは他人事のようにつぶやき、落ちていく破片を覗いた。

「どうする? ・・ど、・・どうする・・・?」
女は額から汗を浮かべながら、自分に問いかけていた。
その時、1発の銃弾がジョンの脇をかすめ、側にあったテレビアンテナを粉砕した。
2人は反射的に伏せると貯水タンクの陰に隠れた。
リザードマン、パープル、グリーンの3人は
さっき捕らえたカップルの2人ともう一人の黒人の女を盾にしていた。
銃を乱射しながらじりじりと歩みよっている。
人質の女は金切り声を上げて泣き叫んでいた。


「な・・なんてヤツらなの・・」
女は貯水タンクの陰からリザードマン達の様子をチラッと見てから言う。
「あんたの手に負えるような相手じゃない」
ジョンは女に向かってつぶやく。
銃弾はタイルや貯水タンクに穴を空け、辺りには水しぶきと金属音が飛び散っている。
「あんた銃は持ってないの!?」
「持ってるよ」
「その銃は飾りなの!? なんで撃ち返さなかったのよ!!」
「オレが一人撃ち殺す度に日本人の女がカンカンに怒るんだ」
「はぁ!?」



リザードマン達はじりじりと歩みよっていた。
貯水タンクに銃弾が炸裂する鈍い音が辺りに鳴り響いている。
ジョンは銃を腰のホルスターから取り出すと、コートの内側から更に円筒の物体を取り出す。
そしてその円筒を2つに分離すると中からワイヤーを引き出し、1個のフックを自分のベルトに固定する。
もう1個を銃の下側の銃口のカバーを開けて装填する。
上方を横切り、向かい側のビルに伸びる連絡橋を見つけたジョンは、
その連絡橋の下部に向けて斜めに撃ち放った。
ジョンの撃った円筒は細いワイヤーを残しながら連絡橋の下部に突き刺さった。
ジョンはワイヤーをグイグイと引っ張り、しっかりと固定されたことを確認する。

「・・・?」
女は黙ってそれを見ていたが、ジョンが自分の腰に手を回して
マンションの端に連れて行こうとしているのを知って恐怖する。

「あんた・・まさかこれで・・・?」

「心配するな。試したことはある」
「試したことあるって!!・・こんな細いワイヤーでっっ!? 冗談じゃないわ!!」
「ピートを信用しろ」

「ピートって誰・・・ひゃああああああああああ!!」

女が言い終わるより早くジョンは女をしっかりと抱きしめると夜空をダイブした。
夜の街の灯りが女の目前をゆっくりと移動した。
「いやぁぁぁぁぁ、死ぬぅぅぅぅぅ!!」
女は強い風を受けて、ジョンにしがみつきながら大声を上げて絶叫した。
2人の身体は月光を受けて、ビルとビルの間を横切った。
そして前方のビルの屋上に着地した。
2人ははずみでゴロゴロと床を転がった。



追いつめた獲物を目前で逃したリザードマン達はあっけにとられていた。
「なんてヤツらだ」
パープルはジョン達が着地した向かい側のビルを見ながらつぶやいた。



尻餅をついたままの女はまなこをかっぴらいたままジョンに言う。
「はぁ・・はぁ・・あんた、気は確か・・・?」
「な、うまくいっただろ?」
「お、落ちてたらどうすんのさ?」
「落ちなかったんだからいいじゃねぇか。助けてやったんだから感謝してほしいもんだね」
「いつもこんなことやってるの?」


「たまにだよ」

月光



リザードマン達の追撃を逃れたジョンと女は小さなバーに来ていた。
女はジョンに自分がなぜホッファは狙うようになったか、いきさつを話した。

科学者であり小規模の研究所スタッフのチーフをしていた婚約者のロイドは、
機械化した人間の体を飛躍的に増強・補強する技術を開発していた。
それはサイバー・ロボット、アンドロイド、バイオノイドの欠陥・穴を埋める、
画期的で長く待ち望まれていた技術なのだ。
彼の長年の研究が実を結び、そしてこれから大きな成功を収めるはずだった。
しかし、その研究記録の重要な部分を記録したマイクロ・ディスクを
ホッファに奪われた上に、彼は殺害されてしまう。
バレリーは恋人の仇討ちとともにそのディスクを取り返すのが目的だ。
犯人であるホッファはあちこちを渡り歩いているし、警察はこの事件を重要視しておらず、
証拠さえ得られず捜査に乗り出してもくれない。
それになんとしても自分の手でヤツにトドメを刺したい。
愛する婚約者であった彼の仇を。


女の身につけているものは至ってシンプルで色気がなかった。
白いタンクトップにブルーのジーンズ、黒いブーツに古びた皮のブルゾン。
女らしい格好とはお世辞にも言えないが、質素なその着こなしはそれはそれで悪くない。
彼女の唇は特徴的だ。
その形のいい肉厚のある唇は女としての成熟度を表し、
男にすぐにセックスを連想させるようなエロチックな魅力を持っている。
質素な服装に身を包んではいても、衣服の上からもその体の感触が想像させるような体だった。
健康な男なら思わず声をかけたくなるような女だ。
隠しきれない、匂い立つような色気は十分感じられた。
女はあたりを見回すと小声で言った。

「金を払うからホッファを殺すのに手を貸してくれない?」

しかしジョンはタバコの煙を吐き出しながら言った。
「オレは殺し屋じゃない。エージェント付きの賞金稼ぎだ。依頼を受けた仕事しかできん。それに−」
ジョンは間を置いてから続けた。

「ヤツは賞金首のリストに入ってない。」

「私の恋人は意味もなく殺されたのよ。ディスクを奪われただけでなく殺されたの。」
「死ぬことに意味なんかないな。死ぬことは死。只の死だよ」
「ふん、冷たい言葉ね。あなたたちはみんなそんなに冷酷なの?」
ジョンは女の目をじっと見た。
「銃はどこで覚えた?」
「・・・射撃場」
「あいつらはあんたの手に負えるようなヤツらじゃない。諦めて帰れ」
「いやよ」
「現実じゃ撃ち返される。射撃場とは訳が違う」

「もしかして心配してくれてるの?」

「仕事の邪魔なんだよ」
「だろうね・・。とにかく命を助けてくれて礼を言うわ。ありがとう」
「狙うならヤツが一人の時を狙うんだな。それから、ほとぼりが冷めるのを待ったほうがいい」
ジョンはそう言ってから立ち上がると、上目づかいに見上げる女に言う。
「そろそろ行くよ。オレはジョン。あんたは?」


女は自分の名前をジョンに言った。
「・・・バレリー。バレリー・レノア」



ジョンは自分もディスクを狙っていることは黙っていた。
この女に気付かれないように手に入れなくては、オレのボーナスもフイになる。




ホッファとリザードマンは根城に帰ってきていた。
そこは昔クラブだったところで、
ギャンブルのチンケな額の払いとして、ホッファがバカな実業家からせしめたものだ。
もっとも、譲り受けた時からこの場所は営業しておらず、ほとんど土地代だけの価値しかなかった。
ホッファはここを臨時の住み家として利用しているだけだった。
この地を離れる時にはどこかのバカを騙して高く買わせるつもりだった。


ホッファとリザードマンは2人きり、奥の部屋で話していた。
ホッファは帰ってきた男達の数が一人足りないことに気付き、リザードマンに問いかけた。
「コッパーはどうした?」

「やられた」

リザードマンは嘘をついた。
そして目撃者であるパープルとグリーンも、
実際はコッパーが“リザードマンに殺された”ことを黙っていた。
もし口外すれば自分の命もないことが本能で分かるからだ。
パープルとグリーンにとって、もともとコッパーとはその場限りの仲間であり、
友情めいたものなど存在しなかった。
しかしリザードマンは案外気前のいい男であることにも2人は驚いた。
パープルとグリーンの2人は黙って、リザードマンの差し出した金の束を受け取った。
したがって2人は事実をしゃべる必要などないのだ。


「殺し屋だったのか?」
ホッファはリザードマンに聞いた。
「いや」
しばらくしてからリザードマンが続ける。

「オレを追って賞金稼ぎがやってきたようだ」

「昨日のやつがそうか?」
「いや、昨日の女と・・もう一人いたが、そいつがたぶんBHだ」
「なんで分かる?」
「いやな、ここへ来る前の町でチーチっていうラリってばっかの男に聞いたんだ。
 そいつはハートに十字架のコートを着てるそうだ」
「女はナニモンだろうな」
「プロじゃない。銃に慣れてない。いずれにせよ、また会えそうだぜ」
そう言ってからリザードマンは自分の右腕を見つめ、もう一方の手で押さえながらつぶやいた。

「まただ」
リザードマンは小刻みに震える右腕をもう片方の腕で押さえた。


「お前金はあるのか?」
ホッファが言う。
「ある。だが洗濯せんと使えん。」
そう言うとリザードマンは黒いアタッシュケースをテーブルに置きホッファに見せる。

「金か?」
「ああ、そのチーチってヤツから“もらった”。洗濯が済むまでいくらか都合してくれ」
「ああ、いいよ。そういえばオマエもおたずねもんだったな。」
「ああ。ホッファ、おまえオレをここに匿ってて気になんないか?」
「いいや。オレは追われちゃいないが、やましいことがない生活を送ってる訳でもないんでな」
「アハハ、違いねぇ」
「逃げるか?」

「いや。面白いから相手してやろう。逃げてもしつこく追ってくるハイエナみたいなヤツラだからな。」
リザードマンはニタニタ笑いながら言った。
彼は楽しんでいた。



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