チャプター11

 

●前回までのあらすじ
ホッファの根城で身動きのとれないジョンに
ホッファの手下とリザードマンがリンチを加える。
そして麻酔とドラッグによって身動きのとれなくなったバレリーの体を
リザードマンは何度も犯した。
ドラッグによってバレリーの体は、
本人の意志とは関係なく強烈に快楽を欲していく。
ひとしきりバレリーの体をもてあそんだリザードマンは
更なる快楽の締めに入る。
それはバレリーが地獄の苦しみを味わった後、
殺されることを意味していた。




ジュークボックスから流れてくる曲に合わせて
トップレスの女が歌い踊っていた。
そのホログラムの女が笑顔でかけ声を上げる。

「さぁ、もっとノって!! 一緒に気持ちよくなろう!!」


ジョンの顔はボコボコに人相が変わっていた。
パープルはウイスキーの瓶をラッパ飲みにすると言った。
「なぁ、おまえ命乞いしないのか?」
ジョンはゆっくり顔を上げると言った。

「・・・26発」

「なんだって?」
「食らった拳と蹴りの数だよ。・・・借りたものはちゃんと返してやるから覚悟しとけ」
ジョンは血だらけの顔で不敵に笑った。
パープルはウィスキーの瓶をジョンの頭にたたきつけた。
瓶は粉々に砕け散った。
ジョンの顔面に流れる液体はウィスキーなのか血なのかわからなくなった。

床に飛び散るウィスキーを見てホワイトが叫ぶ。
「このやろう! まだ入ってるんだぞ。もったいねぇ!!」


じっと黙って見ていたオレンジがパープルの側に詰め寄った。
「・・・パープル、やめとけよ。やりすぎだよ」
「うるせぇ、オレンジ。オレに口出ししようってのか、えぇ!?」
パープルはオレンジを突き飛ばした。
「おまえは端末だけイジってりゃいいんだよ!!
 それともおまえも同じ目に会わせてやろうか!?」


おとなしく様子を見ていたブルーが立ち上がる。
「やめろ、パープル! おまえらには付き合い切れねぇ!!」
「腰抜けが。ビビりやがって。散歩でもしてきやがれ!!」

ブルーは舌打ちすると立ち上がり、オレンジの肩を叩いた。
「おい、オレンジ、行くぞ」
「・・・・」


ブルーとオレンジはトップレスのホログラムの横を通り部屋を出ていった。
部屋に残っているのはパープルとホワイト、そして捕らわれた獲物の賞金稼ぎの3人だけだ。
陽気な拷問は更に続いた。






「いいこと教えてやるよ、子猫ちゃん」
 リザードマンはバレリーにかけた手錠のもう一方をベッドの金具にひっかける。
そして輪を作り錠をしようとした。

「これ使ってもっといい気分になるんだよ。天国を見せてやるよ」


その時、バレリーの膝がリザードマンの下半身を捉えた。
麻酔はかなり解け、力も回復していた。
リザードマンのいわゆる“金的”を捉え、体の自由を奪うくらいには。
リザードマンは声を詰まらせてベッドから転げ落ちた。


“これが逃げ出す最後のチャンスだろう”


バレリーは力を振り絞ってヨロヨロと立ち上がると
再びリザードマンの下半身の同じ場所に力いっぱい右足を叩き込んだ。

「ふんむっっ!!」

リザードマンは腹の底から低い呻き声を上げて体を丸めた。
バレリーは間髪入れずに、側にあった大きな花瓶を持ち上げる。
その花瓶は金属製でかなり重たかった。
股間を押さえのたうちまわるリザードマンの頭部に力一杯振り下ろした。
重く鈍い音がしてリザードマンは動かなくなった。
手錠はリザードマンの右腕にかけてベッドに固定する。


“これで時間が稼げるだろう・・・”


体も、なんとか歩けるくらいには回復している。
体はまだ熱に火照っている。
マトモな精神力ではこの快楽から抵抗することもままならないだろう。
意識もまだ定かなのか妖しい。
ヨロヨロと歩くバレリーの下半身から、何度も放たれたリザードマンの精液が滴り落ちている。
ベッドのシーツをひったくると下半身を拭う。
微かに血が混じっていた。

「・・・なんてことはない。
 狂犬に噛まれただけ・・。
 野良犬に噛まれただけよ」

呪文のようにつぶやいた。
バレリーは散らかっている自分の服を着た。
リザードマンの脱ぎ捨てた衣類から拳銃を拾い腰に差す。
転がるリザードマンを一瞥するとツバを吐きかけた。
そしてフラフラとその部屋を跡にした。






「なんだ、こいつ派手なペンダントしてやがるな」


パープルはジョンの首にかかっているペンダントを見つけた。
金色に輝く、どうやら何かの虫を形どっているようだ。

「ちっとは金になるかな? ま、ちょっとババ臭いな。
 ・・・なんだ、ゴールドじゃねぇのか・・・。
 やっぱりオレいらねぇや」

「オレにくれ」

ホワイトはうずくまるジョンに歩み寄った。
パープルは立ち上がりると、テーブルの上に置いてあるジョンの装備品を見た。
その中で、銀色の円盤に目が止まった。
化粧用コンパクトのように見える。
ただ、キャップのように回して開けるような構造に見えた。

「なんだこりゃ? 化粧品か?」

パープルは円盤を手にとって眺めた。
それからジョンのペンダントに手をかけるホワイトに言った。
「そんなの金になんねぇぞ」
「うちのばあちゃんにやるんだ。あいつ、こんなの大好きなんだよ」
ホワイトはうれしそうに笑いながら、しゃがみこみジョンの首からペンダントを抜き取ろうとした。

その時、ホワイトが回した円盤のキャップから黄緑色のランプが点灯した。
それを見たジョンは顔を伏せてしっかりと目を閉じた。
その円盤は回転させることがスイッチになっていた。
円盤はポーンと宙に跳ね上がるとキャップがはじけ飛んだ。
中から発せられた強烈な閃光に、パープルとホワイトは視力を奪われた。

「うぁっ! なんだ!?」

目の前が真っ白になったホワイトは次の瞬間、
自分の首に鎖が食い込んでいることを知った。
ジョンの手は繋がれていたポールから離れ、
ホワイトの首を手錠の鎖で締め上げていた。
ジョンの左親指が内側に妙な形で曲がっていた。
間接を外して手錠を抜け、機会をうかがっていたのだろう。
今、自由になったその両手がホワイトの首をギリギリと締め上げていた。

「げぇぇぇぇぇぇぇ!!」

この男に手出しすべきではなかったのだ。
パープルもホワイトも知らなかった。
この男がこういう時に何をするのかを。
この男の追いつめられた時がどんなに危険かを。


ホワイトより遙かに小柄なこの賞金稼ぎの腕、
首にめりこむ鎖は、
引き剥がそうともがく丸太のような彼の腕の力より強かった。
ジョンが更に勢いをつけて力を加えると
ホワイトの首は低く鈍い音を立てた。
ホワイトはそのまま全身から力を失いその場に崩れ落ちた。

「てめぇ、何してやがる!!」

パープルも視界を奪われ、目の前は深い霧に包まれていたが、
微かに見える賞金稼ぎの姿を頼りに歩み寄った。
パープルは大きく振りかぶるとジョンの顔面を殴りかかった。
拳はジョンの左頬をきれいに捉えた。
続けざまに放たれた左の拳が、今度はジョンの右頬を捉えた。

顔面から鮮血が飛び散った。

パープルは更に殴りかかろうと振りかぶった。
殴りかかってきたパープルの拳をボンヤリ見つめるジョン。
足下はヨロヨロとふらついている。

が、今度はなんと迫る拳に自らの頭を加速させた。
拳に自ら顔面を打ちつけたのだ。
ジョンの顔からほとばしる血しぶきが床を濡らす。

「うぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

次の瞬間パープルは叫んでいた。
パープルの腕は妙な方向に曲がっていた。
ジョンは口の中の血をペッと吐き捨てると、叫び続けるパープルの頭をつかみ、
そのまま傍らのジュークボックスに叩きつけた。
パープルの頭はジュークボックスの中にめりこんだ。
パッと火花が散り、曲に合わせて踊っていたホログラムの女は消えた。
ホログラムの女は叫んだ。

「そう? おやすみなさい!!」

そしてパープルの体も動かなくなった。


ジョンが敵の攻撃から身を守れるのは、防弾・耐電のコートを身につけているからだけではなかった。
長い間、犯罪者や悪人の捕獲、ギンディから差し向けられてくる殺し屋達との闘い、
そして鍛錬にあけくれた日々がジョンの肉体を強靱なものにしているのだ。





バレリーはフロアにゆっくりと入り、拳銃を構え周囲をうかがった。
そこにはにはブルーとオレンジ、そしてジョンが立っていた。
二人の黒服が死んでいるようだ。
バレリーはブルーとオレンジに銃口を向け叫んだ。

「銃を捨てて!!」

「おい、待て! もうオレたちはこいつらと関係ないんだ!!」


「逃がしてやる。それで見逃してくれるか?」
ジョンは黙ったまま、ユラユラと体を揺らしている。
ペンダントを首にかけ直すと、コートと銃、それに装備品一式を身につける。
そしてタバコがないのに気が付いた。
ジョンは男が落としたくしゃくしゃのタバコを拾う。
しかし今度は火がない。

「火あるか?」

「タバコは吸わん」
ブルーは無愛想に答えた。
オレンジも首を横にふる。
ジョンはしょうがなしにタバコをポケットにしまった。


ブルーが手を振り言う。
「来いよ。裏に車がある。安全な場所まで送ってやる」







夜の街、人通りもまばらな裏路地にブルーはワゴンを止めた。
ジョンとバレリーが車から降りたのを確認するとブルーが言った。
ヨロヨロとふらつきながら歩く二人をしばらく見守った後車のドアを閉めた。
窓から顔を出して言う。

「ここから先はカムナのシマだ。あんた達は安全だ」

そう言うとブルーはガンメタル色のワゴンを再び走らせた。




路地は暗く、静まりかえっている。
肩を抱き合い、ひきづるように歩く2人の前に人影が現れた。

「生きてたか。運がいいよな、2人とも。」

ドナヒューだった。
「分からないらしいな、まったく。オレ様の言うことが、キサマには」
バレリーを突き飛ばすとドナヒューは新米警官に言う。

「押さえろ」

「・・・え、警部・・。ひどい怪我してますよ・・」
「言ってるだろうが。押さえろ!!」
ドナヒューはジョンを殴りつける。
ジョンは地面に倒れた。

「何がBHだ! そのへんのクズと同じじゃねぇか!! オマエらも!!」

「やめてよ! ケガしてるんだよ!!」

今にも意識を失いそうになりながらバレリーが叫ぶ。
ドナヒューはかまわずうずくまるジョンを殴り、蹴りつづける。


「オレの身にもなってみろ!! 後始末するオレの!!」

「あんた、それでも警察か!!」

バレリーが叫ぶ。
「そうさ。警察さ、模範的な。」
うずくまるジョンにドナヒューは吐き捨てる。
「今度は殺すからな。出ていかんと、すぐに」
そう言うととどめに強くジョンの腹を蹴る。
「ぐっっ!!」
血を吐くジョン。

ドナヒューは舌打ちすると新米警官を連れて立ち去った。



バレリーは青い顔をしている。
気分が悪く、体の火照りも消えない。意識も朦朧としている。
うずくまるジョンの側に座り、その顔を見て息を呑んだ。
想像以上にひどくやられている。
瞼は腫れ上がり、顔のあちこちが裂けて血を流している。

「だ・・・大丈夫? なんてヤツなの・・」

「・・・火持ってないか?」

「え・・・? 持ってないよ」

ジョンは吸おうとしたタバコを捨てる。
ヨロヨロと立ち上がり二人は肩を貸し合いながら歩き出す。
通りを横切ろうとした二人の前を猛烈なスピードで一台の車が駆け抜ける。
走り去る車の後部には“ホワイト・アロー”とある。
ジョンは弱々しく言う。
「誰も轢き殺さないのが不思議だぜ・・」
ジョンはその場に倒れた。

「・・ちょっと、あんた! しっかりして!!」

ジョンを助け起こそうとしたバレリーは猛烈な吐き気に襲われ、
たまらず壁に手をつく。
そのままヘナヘナとしゃがみこむ。
体が震え、涙が滲んできた。
思いっきり吐いた。
バレリーは涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら吐いた。

「うっ、うっ、ひっく、・・うげっ、げっ・・・」

暗闇の中、女の嗚咽と嘔吐の混じった音が響き渡った。



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