■夢の中−ベルリンへ
夢の中で私は第二次大戦のアメリカ工兵隊員だった。 私はもう一人の先輩工兵隊員と4人の特殊空挺部隊隊員の6人で でっかな輸送機に乗り夜のフランス上空を飛んでいた。 隊員の一人の話によると、どうやら私たちはこれからヒトラー暗殺に行くらしい。 「ポール、オレのパラシュートちゃんと開くかな?」 「大丈夫だ。たけしのパラシュートは特製だからな」 私はパラシュート降下が初めてのようだ。 赤ランプが点滅すると私たちは輸送機から降下した。 なぜか降下先はアルデンヌの激戦区、ドイツ軍は最後の反撃に出ているところで、 アメリカ軍は甚大な被害に会い、兵士達は塹壕の中でドイツ機甲師団の猛威に震えていた。 靄のかかった見通しの悪い雪景色の中で、味方の戦車やトラックの残骸が燃えている。 「あの鼻持ちならないヒゲづらをやっつけて戦争終わらすんだ」 特殊部隊の兵士の一人は息巻いた。 私たちはレジスタンスの案内で息を潜めながらドイツ軍の前線を抜け歩を進め、 私たち工兵の地雷除去により地雷原を腹這いで進んだりしながら、気が付くとベルリンに着いていた。 初めて見る憧れのベルリンの街並みは美しかったが、なぜか吉野屋とマクドナルドがあった。 「ヒトラーの屋敷はあそこだ」 仲間が指さす先には大きな屋敷があった。 しかも街中だというのに屋敷の前には林があり、鉄条網が敷かれていた。 「たけし、出番だぞ」 そう言われ、私ともう一人の先輩工兵は鉄条網をワイヤーカッターで切っていった。 4人の特殊部隊の兵士達はサブマシンガンのボルトをガチャと引くと小声で言った。 「これからオレたちが屋敷に突入する。おまえらはここで待機していろ」 私達がコクンとうなづくと4人は屋敷へと消えていった。 先輩工兵は「腹減ったから」と言って吉野屋で牛丼を2人前テイクアウトしてきた。 (すばらしい。ここの吉野屋は牛丼を売っている!) しかし私は袋の中身を見て怒った。 「なんだよコレ、紅しょうが入ってないよっ!!」
◇
20分ほどすると大きなサイレンが鳴り響き、屋敷内から銃声がした。 銃声はどんどんこちらに近付いてくる。 戻ってきた特殊部隊の兵士は2人だけだった。 「おめえ、何食ってんだ!!」 牛丼を頬張る私を見て一人が叫ぶ。 「作戦は失敗だ! 逃げるぞ!!」 一同はたちまち走って逃げる。 「あ・・・ちょっと待って」 まだ食べ終わってない私は未練たらしく最後のごはんつぶまでかきこむとかなり遅れてから逃げた。 少し走ると仲間はもうすでに姿を消していた。私は置いてけぼりを食った。 どうやら私はおいてけぼりを食らうのが初めてではないらしく、ポツリとつぶやいた。 「またかよ・・・」 私は道に迷った挙げ句、通りを横切る自転車に乗った少年にチクられ、 たちまちドイツ軍の兵士に囲まれ、そして捕らえられた。
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私はヒトラーの前に引き出された。 実物のヒトラーは顔形は写真と同じだったが、2Dだった。 つまりペラペラの紙のように平面だった。 「私の姿を見て驚いているのかね? フフフ、風で飛ばされるから窓開けられないんだよね」 歩みよるヒトラーの姿が風圧でユラユラと波打つ。 拷問されるとばかりに震えていたら彼はテーブルに並んだチョコレートケーキの一つを私に差し出した。 恐る恐る食べたそのケーキは、今まで食べたどのケーキよりうまかった。 「うちのコックの料理と菓子は最高だぞ」 チョビひげのおやじは言った。 夢中でチョコレートケーキを頬張る私にチョビひげは言った。 「どうだ。仲間になるか?」 私はコクンとうなづいた。 「はい、よろしくお願いします。」 私はチョコレートケーキ1コであっさりとオチた。 チョビひげは喜んで、なぜか私の手をとり陽気な曲を流すとポルカを踊った。
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ヒトラーの屋敷で裕福な生活を送ったのもつかの間、 連合軍の猛攻でヒトラーは焼身自殺、ベルリンは陥落した。 油を含んだヒトラーのペラペラの体はよく燃えたそうだ。 私は今度はたちまち連合軍に捕らえられ罵倒された。 「この裏切り者め!!」 私は本国アメリカに送還された後、シベリアで強制労働させられた。 強烈な寒さに震えながらつるはしを振り上げる私に 雪焼けで真っ黒、皮のめくれたヒゲづらのおやじがウォッカを差し出し言う。 「まぁ、先は長いから」 私はウォッカをラッパ飲みし、深い溜息をつくとオヤジに聞いた。 「・・・今、季節はいつですか?」
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