■とんかつ屋でエクスプロージョン

 

ちょっと日頃のグチを。

 

無視されるのは嫌いだ。

無視するくらいなら罵倒してくれ。

友達なら叱り励ましてくれ。

そうでないなら近寄らないでくれ。

仮にも創作系の仕事をしているというのに
人の批評や他人への批判に終始しているようではどうかと思うのです。

人に害を成す者は、人から害を成される覚悟をせよ。

子に害を成すものは自分が害を成す(??)。

恥を知らぬヤツを軽蔑する。

誰も悪くない。

誰にも罪はない。

ただ全員がたまたま混乱して
はけ口を求めていて、
それに時間にも追いつめられていた。

許す。

怒りもないが
愛情も湧かない。

狂ってるから耳を塞ぐ必要があるのだろうか。

うやむやにしてしまおうか。

得体の知れない黒雲に包み込まれている気がする。

この空が!

竹竿でフナ釣りをしていた頃はあんなに青かったのに。

 

 

 

 

ボクが住んでいる家の最寄りの駅の周辺に小さなトンカツ屋がある。

小汚い小さな店なのにどうやらチェーン店らしく、
西武線沿いで同じ名前の店を何軒も見つけた。
しかしチェーン店というには店の従業員の愛想の無さや、
どちらかというと生気のない店のたたずまいなど
よくある“営業しているのかどうかわからない店”の雰囲気であり、
窓ガラスが投石で割れて、ガムテープで補強してたりするぐらいがちょうどいい感じである。

店前のショーケースの中には、レストランでおなじみのミニチュアのトンカツ
(テレビでよくやっている職人さんが水の中に黄緑色の液体を落として、
手でクルクル回すとレタスが出来てしまうというアレである)と、
値段を書いた札が並んでいる。

ちなみに店内は至る所が“中華店”並に油でギトギトである。

 

店は中年のすこしくたびれた感じの夫婦がやっている。

ほとんどしゃべらない人達だが、
つけっぱなしのテレビから流れてくるお笑い番組に反応して
フフンと笑ったりしているから無感情な人なわけでもない。

当然ながらオッサンなので、ボクたちよりもうひとつ前の世代の芸能人の笑いに反応しているようだ。

若手芸人の笑いには反応しない。

 

ところでボクは最初に来店した時に、例によって食べられるか不安だったので

「ご飯少なめにしてください」

と言ったらなぜか嫌な顔されたのが謎である。

 

 

さて、
この店の客席はカウンターが8席ばかりで、
お昼時はさすがにいっぱいで入れないこともある。

この日の客の数はボクの他に4人ほど。

みんなたぶん職場が近くか、自宅が近くにあるであろう馴染みっぽい客である。

 

今日の主人はいつもにも増して口数が少なく機嫌が悪いような気がする・・。

そういえば奥さんも同じく機嫌が悪そう・・・。
客も黙ってもしゃもしゃ食っている。

 

しかし一人だけよくしゃべっているヤツがいる。

ボクの隣には常連らしい初老のオッサンが座っていて、
このオッサンだけは店のオヤジに話しかけている。


身なりは清潔な感じだが、黒縁の眼鏡、
アイロンをあてた真っ青なジーンズの中にチェックのネルシャツをキッチリ入れて、
ベルトをみぞおちの下くらいのところで締めているようなタイプで、
しゃべり方からしてもちょっとトロい感じ。

どうやら話の内容はパチンコの話題らしい。
しかしオヤジは調理で忙しいのでそれどころではなく、
適当に相づちを打っているのだが、その客はそんなことには気付かないのか
平気で楽しそうにしつこく話しかけている。

「あんまり人の事情とか解らない人なのかな・・」

とか思いながら、まぁそれでもそんなに悪い人でもなさそうなので
大して気にも留めていなかった。

 

 

そうこうしているうちにメガネのオッサンのところにトンカツの皿が運ばれた。

主人はご飯とトンカツの皿を。
みそ汁を入れるのは奥さんの仕事らしい。

メガネのオッサンはもしゃもしゃと食べ始めた。

「だまって食べてればいい人なんだな・・」

と思ってボクも食べていると
そのメガネのオッサンは主人のほうに一言大きな声で、

 

「みそ汁もらえるぅ〜?」


と言った。

 

すると主人は少し離れた場所にいた奥さんのほうを一瞥。

奥さんはあわてて出すのを忘れていたみそ汁をメガネのオッサンのところに運んだ。

主人は小さな声で奥さんを責め立てる。


「なんで忘れるんだ」

 

すると奥さんも悲壮な顔で負けじと


「あんたのほうが近くにいたんだから出してくれても・・・ゴニョゴニョ(最後のほうが聞こえない)」


客に聞こえないように口げんかを始めたのだ。

しかし狭い店内のこと、客には丸聞こえである。

しばらくヒソヒソと口げんかを続けた後、

奥さんは調理帽を投げ捨て、怒ってトイレに入ってしまった。

 

客のみそ汁がきっかけとなって、
ついに二人の感情が爆発してしまった。

たちまち店内は中年夫婦のケンカ独特の、きな臭い空気に包まれてしまった。

メガネのオッサンは平気な顔して、何のフォローもなしに座っている。
(・・・別に悪いことをしてるわけではないし、フォローが義務なわけでもないのだが・・)

客は今日、主人と奥さんの仲が悪いのを知っていたからだろうか、
一斉にメガネのオッサンを見た。

 

無言の非難。

 

メガネのオヤジはそんなことには気付かずに
うまそうにトンカツにかぶりついている。

 

知らない・気付かないこともまた幸せだ。

 

別に誰も悪くないのだ。

 

ましてやメガネのオッサンが悪いわけはない。


単に出て当たり前のみそ汁を所望しただけなのだ。

でもボクも他の客と一緒に見たんだよね。

みんなおんなじ気持ちだったんだよね、たぶん。

それが理不尽なことだと分かってるけどそう思ったんだよね、たぶん。

 

 

 

「今日だけはみそ汁、我慢しなよ」って。

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