■昇天仰天

 

そうです。

以前書いた“死んでも死にきれない理由”のことです。

気にかけてたら本当に夢に見てしまいました。

ある日、ボクは交通事故であの世に逝ってしまわれました。

 

信号無視して突っ込んできた乗用車にはねられ、
ボクは20mも吹っ飛ばされた。
戦場で撃たれた兵士のように
ボクの視界はアスファルトに横たわったまま、
ゆっくりと暗転していった。

気がつくと夜の街をたんぽぽみたいにフワフワと浮いていた。

地上5mくらいを、頼りなく風に流されている感じで浮いている。

どうやら東京の自宅の近くのようだ。

全然死んだ実感がない。

なにせいつものようにお腹が減ってくるのだ。

 

コンビニに行った。

弁当を持ってレジに行ったら、

レジの男の子が気づいてくれないので腹が立って頭をシバいてやったが、

それでも全然気がついてくれない。

まるで宙を舞うハエを追うような仕草をするだけなのだ。


非常にムカついたので、
男の子の髪の毛を一束むしってやった。

 

すると男の子はもう一人のバイトの男の子に殴りかかった。

2人は取っ組み合いのケンカを始めた。

 

ダメですね。
お客がいるのにケンカしては。

 

店内は騒然として険悪なムードになったのでボクは店を出た。

 

考えてみたら財布を持ってなかったので
気づいてくれなかったのは幸いだ。

 

弁当を食べながら自宅に向かった。

どうせ自分のことを誰も見えてないんだから
食べながら歩いても(飛んでも)いいだろう。

 

自宅のアパート前に来ると
部屋の中に人の気配がする。

電気が点いている。

部屋の中に入ると両親がいた。

愛媛からわざわざやってきたのだ。

ボクの部屋の中の物を整理して段ボールに詰めている。

母はボクの来ていた服をたたみながら泣いている。

父はひたすら無言で作業している。

 

「こなんことなるんじゃったら、
  正月にもっとおいしいもん食べさせてやっといたらよかった・・・」


そう言っては延々と涙を流す母の姿を見てボクも泣いた。

 

「ご・・・ごめんよぅ・・・親孝行ひとつも出来んかった・・・」

 

気づいた時には遅すぎた。

今はただひたすら後悔の念しかない。

ボクは涙をポロポロ流しながら、母の姿を名残惜しそうに見守った。

 

 

すると母が急にピタッと泣き止んだ。

引き出しの中から何かを見つけたようだ。

それは数冊のノートだった。

母はそのうちの一冊を手にとってページをめくっている。

ページをめくるたび母の悲しみの涙はため息の声に変わっていった。

 

「お父さん、コレ見てみんかい」

 

母は父にもノートを見せると
父は驚愕の声を上げた。

 

「ふぉぉ!!」

 

一体何を見つけたのかと思い、

ボクは父の後ろに回ってノートの中身を覗いた。

ボクは叫んだ。

 

「い、いかんがね!!」

 

それはボクが日頃描きしたためてきた“マル秘ノート”だった。

人様には見せられないようなエロい絵が描き連ねてある。

ボクは一人オロオロして、わめいたり部屋の中を走り回ったりしている。

ノートをひったくろうとしたが

透明なボクの体はノートを素通りして、掴むことができない。

・・・さっきは弁当掴めたし食べられたのに・・・。

 

 

 

翌朝、父と母はまだボクの部屋にいた。

整理もおおかた終わり、

テレビを観ながらボクの炊飯器で炊いたご飯で朝食を摂っている。

ニュース番組をやっているようだ。

誰かの顔写真の横でニュースキャスターがしゃべっている。

よく見ると写真の顔はボクだった。

 

 

「昨日東京都にて乗用車にはねられ即死したたけしさんですが、

 翌日ご両親が遺品の整理をしていたところ、

 大変なものが発見されました。」

 

そう言って映し出された写真は大きくモザイクがかかっていた。

部屋の中の母が写っている。

いつテレビ局が来たのだろう。

母の目にはモザイクをかけられている。

いつもより化粧が濃い母はマイクを向けられ、

フィルターをかけられ甲高くなった声で言った。

 

 

「・・・いやぁ、世間様に顔向けできません・・・。本当にすみません・・」

 

 

テレビに映った自分の姿を見て、母は照れながらのんきに言った。

「お父さん、どうかいね?
  きれいに撮れとるかいね?」

「ふぅふん。きれいに撮れとるがね」

「ほいでも目のとこ隠されとるけん誰かわからんねぇ」

「そうじゃのぅ」

「・・・お父さん」

「なんぞね、お母さん」

「やっぱり産むんじゃなかったねぇ・・・」

「・・・・今言うてもしょうがないきん」

 

 

 

・・・・死んでも死にきれない。

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