■レフト・アローン




「お客さ〜〜ん、どこ行ってたのぉ」

「トイレだよ」

「急にいなくなっちゃうからまたチェンジかと思っちゃった」

「飲んできたから我慢できなくて」

「よかったぁ。顔見るなりチェンジする人多いんだ、あたし。ブチャイクだからぁ」

「・・・そんなことないけど」

「でも性格はいいほうだと思うんだよね。癒し系ってよく言われるんだよ」

「そうなんだ」

「ミカっていいます。よろしくぅ」

「あ、はい」

「じゃ、さっそくお風呂行きましょうかぁ」

「その前にちょっと煙草吸わせて」

「いいけど時間もったいないよ」

「いいんだ、オレ早いからどっちかっていうと時間余ると思うんだよね、ハハハ」

「お客さん、笑えないよ」

「・・・・」

 

「お客さんもあたしの鼻、気になるんでしょ?」

「え? ・・・いや?」

「なんでこんな鼻になったか聞きたくないの?」

「いや・・・別にいいけど」

「これさぁ、あたしの元カレにやられたのよぉ」

「殴られたのか」

「うん、同棲してたカレがいてね。
 ある日プロポーズされた日にね、殴られたの」

「・・・なんでプロポーズした日に殴るの?」

「それがね、あたし隠し事が嫌だから
 結婚するんならちゃんと自分のこと全て打ち明けようと思ったの。
 で、あたしカレのサイフから毎月こっそりとお金を抜き取ってたんだけど、
 そのこと、ちゃんと打ち明けたの。
 すこしづつ抜き取ってから自分の口座に入れてたのね。
 そしたら知らない間に200万になってたの」

「打ち明けたら殴られたのか」

「うん、ぺしゃんこにされた」

「200万は返したの?」

「うん、返したよ。最初っからそのつもりだったし」

「そのカレと結婚したの?」

「ううん、それっきり。今はカレに毎月お金払ってるの」

「なんの金さ?」

「“警察には言わないから慰謝料としてあと100万出せ”って言うから」

「それで毎月払ってるのか」

「うん、セコいよね。ちゃんと話したのに」

「・・・どっちもどっちだよなぁ」

「ひどぉい。あたしが悪いって言うの?」

「・・人の物くすねてたんだから悪いんじゃないの?」

「打ち明けたんだからチャラじゃない!!」

「・・・・勘弁してくれよ。自分からしゃべったんじゃないか」

「お客さん、思いやりないよね」

「・・・」


「お客さん仕事なにしてるの」

「印刷屋・・絵描き・・・みたいなもんかな・・」

「絵描き? 絵描きって食べてけるの?」

「・・・ずいぶんストレートだね・・」

「だってよく“食ってけない”って言うじゃない」

「いや・・まぁそこそこに・・」

「月どのくらい儲かるの?」

「・・・ここは何か? 疲れを製造する場所なのか?」

「何ソレ? ワケわかんない!! お客さん、人を怒らすの得意でしょ!!」

「・・・ああ、ああ、悪かったよ。ごめんね、今日はヒドい一日で疲れてたんだ」

「まぁいいよ。誰でも間違いはあるからね。
 でももうちょっと口の利き方には気をつけたほうがいいんじゃない? 
  いい大人なんだから」

「・・・」


「お客さん、犬好き?」

「・・まぁ好きなほうかな。猫のほうが好きだけど」

「うちで飼ってるの。ヨークシャテリア。“くぅちゃん”って言うのよ。かんわいいの!」

「・・・ふぅん」

「でもしつけって大変よね。言うこと聞かない時はちゃんと叱ったりしないと」

「・・・はぁ」

「こないだも柱をガリガリ噛んだりするもんだから叱ったらスネたのよ。
 ご飯抜きにしてやったよ」

「ちゃんと食わしてやれよ!」

「だってしつけだもん」

「ご飯は一番の楽しみだろ」

「でも最近なんだか頭の毛が抜けてきたのよね」

「ストレスのハゲだろうね・・」

「ハゲの犬はちょっと嫌だなぁ。散歩にもつれてけないし。
 最近はパグもかわいいかなって思うの。お客さん、パグどう思う?」

「どうって・・」

「あ〜あ、こんな仕事嫌だなぁ。あたしもサラリーマンでもやろうかなぁ」

「・・・サラリーマンって楽じゃないけど?」

「なんにしてもこんな仕事早くやめたいのよね。
 だって好きでもない人に抱かれるわけでしょ?
 ・・・あ、ごめんなさい。でも仕事だからちゃんとやるからね。安心して!」

「・・・」


「煙草は吸い終わったね? じゃ、始めましょか」

「・・ああ」

「湯加減見てくるね」

「ミカちゃん」

「はい?」

「チェンジお願いします」






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