■愛の配達人平井さん




「あと10個ばかしくれんかなぁ。

 なんやったらその袋ごとくれてもかまわんで。

 いや、やからやな。ボクが全部もろてやろ言うてんねん。

 キミもそれ全部配るの大変やろ。

 捨てたの見つかったらドヤされるしなぁ。

 大変やなぁ。

 ナニ、親方には内緒にしていたるよってに」

 

「あ、平井さん」

「お、たけしやないか」

「平井さん、こんなとこで何してるんですか」

「いやいや、なんでもないよ。
 おお、ねぇちゃんすまんな。ダイジョーブダイジョーブ、
 親方には内緒にしたるから」

「何やってんですか、ティッシュ配りの女の子捕まえて。
 そんなにティッシュもろてどないすんですか」

「いやいや、あったら便利やろ。
 あの子らは仕事が早うはけて、ボクは得をする。
 こんな素晴らしいことがこの世にあろうか」

「あ、そうそう。
 こないだの平井さんのライブよかったですよ」

「なんや来てたんかいな」

「なんていうのかな、色気に磨きがかかってきた感じっていうのかな。
 でもあれ気になったんですよね・・
 “その手でその手で何でも汚して〜”ってやつ」

「そぉ〜のぉ〜てぇ〜でぇ〜ぁっっ!!
 そぉ〜のぉ〜てぇ〜でぇ〜ぁっっ!!
 なぁ〜んん〜どもぉ〜よぉ〜ごぉ〜しぃてぇ〜〜ぁっっ!!
 って、この歌か?」

「限りなく卑猥な歌ですね」

「何を言うてんねんな、キミはホンマに夢のない。
 それはたけしが卑猥やから卑猥に聞こえるんやで」

「・・・まぁ・・否定はしませんけど。
 それはそうと気になるんですけど」

「何がやねん」

「その歌の語尾に必ず“ぁっっ!!”って必ず入れるでしょ。アレ、なんなんですか」

「キミはホンマに人の話を聞いてないな」

「なにがですか」

「もっかい言うてやろ。それは何故かと尋ねたら、
 それは平井のボイスが女性のハートをメロメロにするからやないか。
 ボクの仕事は女を酔わせてなんぼやからやな」

「はぁ・・・そうですか」

「金のためとはいえ、好きでもないおばはんに腰振っとるわけやけどやな、
 夢がなくなったら人間おしまいなんやで。
 ボクのビブラートは女の子宮に響くんや」

「そんなにですか」

「そんなにや。そりゃもう老いも若きも子宮の奥底にズンドコ来るわけやね」

「いかがわしいなぁ」

「ボクのアートに口出しすな。
 言葉やないのよ。ハートから自然にほとばしるわけやね」

「出過ぎたこと言ってすいませんでした」

「わかればええねや」

「久々に飲みにいきましょうよ。安くてうまい店見つけたんですよ」

「今日はダメよ。ボク、今日は商店会の用事あるもん」

「平井さん、そういうのマメですね」

「ふれあいを大事にする男、その名は平井、である」

 

 

 

 

「平井さん」

 

「なんや、結局来たんかいな」

「平井さんがちゃんと働いてるかな思いまして」

「失礼なやっちゃなぁ。ボクの仕事はね、福引き係ね」

「あ、ガラガラや。懐かしいなぁ」

「i-podが当たるでぇ」

「ほんまですか」

「平井の福引きは大きな福が来るよぅ!!」

「ボクも抽選券持ってるんですよ。やってみようかな。はい3枚」

「ガラガラ回してみ」

 

  ガラガラガラ

 

「あ、ハズレか・・」

「はい残念。ティッシュ」

「もっかい」

 

  ガラガラガラ

 

「あ、4等!」

「ハイおめでと! ティッシュ2個!!」

「えぇ!? 4等でもティッシュですか!」

「うん。これより上は豪華になるよ。
 最後の1枚に願いをかけてみよほ。アップルが当たればええの〜」

「よぅし。うりゃっっ!!」

 

  ガラガラガラ

 

「お! 2等やないか! クジ運の強いやっちゃの〜〜!」

 

「にっっ、平井さん、2等ってなんですか!?」

「ハイ、こんな豪華賞品が!!」

「・・・・・またティッシュやないですか!!」

「数が違うねんで」

「しかもセロテープで5個止めとるだけやないですか!!
 ええんですか、こんなことして!?」

「最近この商店街も不景気やからの〜。予算ないねん。
 まさかたけしが2つも賞引くとは思わへんかったしやな」

「武富士の広告入ってますけど、コレってまさかさっきの・・・。
 ・・・・・ホンマにi-pod入ってるんでしょうね・・?」

「入っとるよぉ。ウソや思うんやったら商店街で買い物してチケットもろてこい」

「ティッシュばっかいらんですよ」

「さみしい一人暮らしにゃティッシュはいくらあっても困らんやろ」

「失礼なこと言わんでください!!」


 

「は〜〜〜い、みなさん、まいどまいど〜〜!!

 愛の配達人平井ですよ〜〜!!」







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