■さぁ、キミならどうする?

 

列車の中の偽善者

 

各駅停車の列車。
社内は8割混み。


席に座れなかったので吊革につかまって、
i-podのイヤホンで音楽を聴いていた。

自宅までは約10駅。

揺られながら2駅を過ぎた頃、周囲がなにやらあわただしい。

何事かと見回すと、ちょうど後ろに女の人が両手をついてしゃがんでいる。



「何か落とし物を拾ってんのか? 背中に当たりやがってジャマだな!」



くらいにしか思わなかったが、
ふと見ると女の人の両手のあたりに白いものが広がっている。



落とし物じゃなくて、気分悪くて吐いてるのだった。
気がつかなかったが、ボクのちょうど足下あたり。
それももう少しで足にかかるくらいギリギリ・・・。



当の本人はとにかく気分が悪そうで会話も出来ないから
どうしたいのか分からないし、途中下車する気配もない。
数人の乗客が近くで声をかけたりしているが、
足下はもとより、本人のバッグや衣類にも
白い吐瀉物が多量に飛び散っているためか、
皆必要以上には近寄らない。

そりゃそうだ。


ボクはただただ辺りを落ち着きなく見回してはひたすらオロオロしていた。


というのもボクはチラ見するだけでも気持ち悪いくらい
“もらいゲロ”しやすいタチなので、見ないようにするしかないのだ。

無理に近寄ってもらいゲロして、修羅場を2倍にしては元も子もない。


かと言ってその人は心配だし、
罪悪感もあってその場を立ち去ることも出来ず、
ただひたすら「どうしよう? どうしよう?」と、
誰かがなんとかしてくれるのを待つ小市民なのである。

そんなつもりはなかったが、たぶんそうである。




そんな時に一人のおばちゃんが歩み寄ると女の人に声をかけた。



「気持ち悪いの? そう。駅はどこまで?」



と、しゃべりかけながらハンカチやティッシュで、
その子の手足やバッグや衣類に飛び散った吐瀉物をきれいにしているではないか。
自分の手が汚れることもかまわず、にこやかな顔で。


それから停車した駅で車掌を呼んできた。
車掌に連れられて列車を降りた女の人におばちゃんは一言

「気をつけて帰るのよ」

と声をかけた。




乗客でそのおばちゃん一人だけである。
あとの人はボクも含めてどうしていいかわからずオロオロするばかりだった。


そのおばちゃん、気持ちのいい人だしすごくカッコイイと思った。


それに比べて自分はなんなんだ。
「コレ、使ってください・・・」
と、小さな声でかろうじてポケットティッシュを渡せただけだ・・。

中途半端に気を使ったから余計恥ずかしかったし、ますます偽善者じゃないか。






こんなシチュエーション。
・・・・さぁ、キミならどうする?






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