■クリスマス




「パパ! おかえり!!」




「ただいま。たけし、いい子にしてたか?」


「うん、ずっと良子ちゃんと遊んでたよ」

「そうか。遅くなってごめんよ。良子ちゃんとは何して遊んでたんだい?」


「お医者さんごっこ」


「お医者さんごっこか」


「うん、良子ちゃんを丸裸にしてから、聴診器を当てながら

 “ええか? ええか?”“奥さんええのんか?”って言うの」




「・・・・どこでそんなこと覚えたんだ・・・」



「パパ、“鶴光”って誰?」



「・・・・そんなこと知らなくてよろしい」



「パパ、良子ちゃんが言ってたけど“イク”って何??」

「・・・・父さん、おまえの育て方をちょっと間違えた気がするよ・・」




「でも良子ちゃん家が晩ゴハンだから、良子ちゃん帰っちゃったんだ」

「・・・・そうか。たけし、さみしい思いさせちゃったな。
 テレビもゲームも買ってやれなくてごめんな・・」

「全然平気さ。チラシの裏にお絵かきしてると楽しいんだ」

「母さんが生きてたらおまえにもおいしいものでも作ってくれてるのにな・・」

「パパ、どうしたの? ・・・泣いてるの?」


「・・・いや、たけしがいい子だからパパうれしいんだ」


「それよりパパ、さっきから水道の水出ないんだけど」

「・・・ああ、そうか・・おかしいな・・。

 今日はお隣の蛇口を使わせてもらおう」

「ガスもなんか点かないみたい」

「・・・う・・・、そうか・・・。今日だけは風呂ガマンしよう・・」

「・・・・どうしたの、パパ。なんで泣くの・・・?」


「・・・・ハハハ、・・・今日は外がホコリっぽかったからさ・・」


「お腹すいたよう、パパ」

「そ・・、そうだな。ゴハンにするか。買ってきたぞ。
 クリスマスといえばチキンだよな」

「わぁーーーー、ケンタッキーだぁ!!」

「ちょっと少ないけどゴメンな」

「すごいや!! パパ、早く食べよう!!」


「・・・パパ、外で食べてきたから・・」


「え、そうなの?」

「たけし、全部食べていいんだよ」

「うわーーー、すごいやぁ!!」

「あ! もうすぐ9時じゃないか!!」

「どうしたの、パパ。9時に何かあるの?」

「クリスマスだからパパ、たけしのためにすごい人を呼んだんだ」

「え、誰!?」

「聞いてびっくりするなよ、すごいぞ」

「えーーーー、ドキドキするよ。誰? 誰!?」


「ケミストリーだ」


「ウソーーーーーーーー!?」



「ホントだ。パパ、3万も払ってたけしのために来てもらったんだ」


「パパ、すごいやーーーー!!」






  ピンポーン




「お、来たぞ、たけし」

「早くドア開けてあげなきゃ、パパ!」

「そうだな、ジャーン!!」


「コンバンワ!! メリークリスマース!!」


「・・・・・・・・・・・・・・パパ・・」

「うれしいか、たけし?」


「・・・パパ、何コレ・・・?」


「“何コレ”って・・。ケミストリーじゃないか」

「ケミストリーって2人組だよ!!」

「そうなのか。忙しかったんじゃないか? クリスマスだから」

「それになんで黒人なんだよ!!」

「パパがニセモノに3万も払ったって言うのかい?」

「こんなのケミストリーじゃないヨ!!」


「ワタシ、ケミストリーデス」



「ホラ、本人もケミストリーだって言ってるんじゃないか」

「だから違うって、パパ!! パパ、ケミストリーホントに知ってるの??」

「見たことはないけど噂では聞いたことくらいあるゾ」

「知らないんじゃないか!!」

「じゃあ、こうしよう。この人に歌ってもらうんだ。
 本物なら歌うまいはずだ」


「・・・・・・じゃあ、歌ってよ・・・」




「・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・」




「・・・・・すまん、たけし・・・」

「いいんだよ・・・パパの気持ちだけはうれしかったよ」

「・・・パパってホントにダメだよなぁ・・・・ごめんな・・」

「もういいんだよ。それよりケンタッキー早く食べよう!!」

「全部たけしが食べていいんだよ」

「何言ってんの、さっきからパパのお腹キュルキュルいってるじゃないか」

「・・・・う・・・・・」



「一緒に食べようよ」


「・・・・・・・・うん・・・」


「泣かないでよ、パパ」


「・・・ヒック・・・うん・・」


「おいしい、パパ?」


「・・・うん・・・・うん・・・」




「でもアレで3万円もとるなんて、ボッタクリだね」

「・・・・そうだな」

「あんなリズム感のないオンチな黒人もいるんだね」



「・・・・・うん、パパも知らなかったんだ。

   ケミストリーがあんなヒドいラップ歌うなんて」

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